おかえり
私が育った家は
メゾネットタイプのマンションだった。
学校から家に帰ると、
私は3階の玄関から4階にいる母に大きな声で
「ただいま!」
学校が楽しくても楽しくなくても明るく言う。
『おかえり』
と返ってくる。
私は母の”おかえり”をたくさん知っている。
喜んでいるような”おかえり”
楽しそうな”おかえり”
もう帰ってきたのかという感じの”おかえり”
怒った様な”おかえり”
暗い”おかえり”
悲しそうな”おかえり”
今日の”おかえり”は残りの半日の私の振舞のヒントだった。
ネガティブな”おかえり”の日は、お手伝いをしたり、美味しいコーヒーを淹れる。
ポジティブな”おかえり”の日は、元気に遊びに出かける。
母がネガティブな日は
お姉ちゃんや父が返ってくる前に解消してもらう。
家族が笑ってくれるのなら、
私を殴ってもいいし、玄関から放り出してくれてもいい。
お金を作ったり、お料理をしたり、
お悩みを聞いても母の望むようなことを話せない私にできるのは
それくらいだった。